運動神経は「遺伝」ではなく「育てるもの」
「うちの子、運動神経が悪くて…」そんな声を聞くことがあります。でも、安心してください。運動神経は遺伝ではありません。
現代のスポーツ科学では、運動神経は後天的に育まれるものだということが明らかになっています。つまり、生まれつき決まっているのではなく、どんな運動をしてきたかによって大きく変わるのです。
そして、運動神経を育てるのに最適なスポーツの一つが、実はテニスなのです。
ゴールデンエイジという「魔法の時期」
特に重要なのが、**プレゴールデンエイジ(3〜8歳頃)からゴールデンエイジ(8〜10歳頃)**と呼ばれる時期です。
この時期は、神経系の発達が著しく、体の動かし方を学習する能力が人生で最も高い「魔法の時期」と言われています。この時期にどんな運動を経験したかが、その後の運動能力を大きく左右するのです。
では、この大切な時期に、どんな能力を育てればいいのでしょうか。
テニスが育てる3つの運動能力
運動神経を構成する要素はいくつもありますが、特にゴールデンエイジ期に育てたいのが以下の3つです。そして、テニスはこれら全てを同時に鍛えられる理想的なスポーツなのです。
1. 敏捷性(アジリティ)
敏捷性とは、俊敏に方向を変えたり、素早く反応したりする力のことです。
サッカーで相手をかわす動き、ドッジボールでボールを避ける動き。これらに必要な「パッと動ける力」です。
テニスではどうでしょう。相手のショットに応じて、左右前後に素早く動く。ボールの軌道を予測して、瞬時に反応する。一球一球、敏捷性が求められる場面の連続です。
ベースラインを走り回る動き、急に前に詰める動き、後ろに下がってロブを追う動き。テニスコート全体を使って、様々な方向への素早い動きを自然と身につけることができます。
2. 空間認知能力
空間認知能力とは、自分の体が「空間の中でどこにあるか」を把握する力です。
跳び箱を飛ぶとき、鉄棒で回るとき、ボールをキャッチするとき。これらは全て、自分の体と周囲の空間の関係を正確に理解する必要があります。
テニスでは、この空間認知能力が常に試されます。
- 飛んでくるボールと自分との距離感
- ネットまでの距離、相手コートまでの距離
- 自分がコートのどの位置にいるか
- ボールをどの高さで打つべきか
立体的な空間の中で、自分の体をコントロールする。この感覚が、テニスを通じて自然と磨かれていくのです。
3. 協調性(コーディネーション)
協調性とは、手と足、目と体など、複数の部位を同時にスムーズに動かす力です。
リズムよくステップを踏む、タイミングよくボールを打つ。これらは全て、体の各部位を協調させる能力が必要です。
テニスほど、この協調性が求められるスポーツも珍しいでしょう。
- 目でボールを追いながら
- 足を動かしてポジションを取り
- 体重移動をしながら
- 腕を振ってボールを打つ
これら全てを、わずか数秒の間に同時進行で行う必要があります。まさに、全身の協調運動の集大成と言えるでしょう。
テニスは「運動神経の総合トレーニング」
ここまで読んで気づかれたでしょうか。テニスは、運動神経を構成する要素を全て同時に使うスポーツなのです。
他のスポーツでは、これらの一部に特化することが多いです。短距離走は敏捷性、体操は空間認知能力、ダンスは協調性、というように。
しかしテニスは違います。一つのプレーの中に、敏捷性も、空間認知能力も、協調性も、全てが含まれています。だからこそ、テニスは運動神経を総合的に向上させる、理想的なトレーニングになるのです。
大人になってからでも遅くない
「もう子供じゃないから、手遅れかな…」と思った方、安心してください。
確かにゴールデンエイジは特別な時期です。でも、大人になってからでも運動神経は向上します。神経系の可塑性(変化する能力)は、年齢を重ねても失われることはありません。
テニスを始めることで、どの年代でも運動神経を鍛えることができます。実際、テニスを始めてから「他のスポーツも上手になった」「日常の動作がスムーズになった」という声をよく聞きます。
むしろ大人だからこそ、理論を理解しながら、意識的に体を動かすことで、効率よく運動神経を向上させることができるのです。
子供にも、大人にも、生涯役立つ能力
運動神経は、スポーツだけに役立つものではありません。
- つまずきそうになったときの反射的な対応
- 物を落としそうになったときのキャッチ
- 階段を降りるときのバランス感覚
- とっさに体を動かす判断力
これらは全て、運動神経が支えています。つまり、運動神経を鍛えることは、日常生活の質を向上させ、安全に生きていくための基礎能力を高めることなのです。
テニスを通じて育まれる運動神経は、子供にとっては将来の可能性を広げる財産になり、大人にとっては生涯の健康と安全を守る力になります。
さあ、ラケットを持って、コートに立ちましょう。あなたの体は、まだまだ成長できます。テニスという素晴らしいスポーツが、その可能性を最大限に引き出してくれるはずです。


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