ダブルス=2人で戦うシングルス…ではない
「シングルスは得意なんだけど、ダブルスになると途端に勝てない」 「ペアと息が合わない」 「ダブルスの動き方が分からない」
こんな悩みを持っている方は多いのではないでしょうか。
実は、これらの悩みには共通の原因があります。それは、ダブルスをシングルスの延長として考えてしまっていることです。
ダブルスは、決して「2人で戦うシングルス」ではありません。全く別の競技と言っても過言ではないのです。
同じコート、同じボール、同じラケットを使っていても、戦術の考え方、ポジショニングの基準、必要な技術、すべてが違います。
今回は、ダブルスをこれから始める方、シングルスからダブルスに移行したい方、そしてダブルスで伸び悩んでいる方のために、シングルスとダブルスの5つの決定的な違いを解説します。
まずは「別競技である」という認識から始めましょう。そうすれば、ダブルスの世界が一気に開けるはずです。
第7部:ダブルス完全攻略シリーズ、スタート
今回から始まる「ダブルス完全攻略シリーズ」では、ダブルスを体系的に、そして実践的に学んでいきます。
- 第21話(今回):シングルスとの違い(基礎理解)
- 第22話:陣形マスター(戦術の基本)
- 第23話:配球理論(4人の位置関係)
- 第24話:コミュニケーション術(ペアとの連携)
- 第25話:MBTI×ダブルス(性格別戦略)
では、第1回として、まずは基本となる「5つの違い」から見ていきましょう。
① 戦術の目的が違う ― “抜く”ではなく”崩す”
シングルス=1対1で相手を動かす
シングルスの戦術は、基本的に**「相手を動かして、オープンコートを作る」**という発想です。
- 相手を左右に振る
- 前後に動かす
- 体勢を崩してミスを誘う
- 最後にオープンコートに打ち込む
1対1の対決なので、相手一人をコントロールすれば勝てます。
ダブルス=4人の位置関係で”スペースを作る”
一方、ダブルスは4人がコート上に存在します。この4人の位置関係が、すべてを決めます。
ダブルスの戦術の目的は、「相手を抜く」ことではなく、**「4人の位置関係を崩して、スペースを作る」**ことです。
具体例
シングルス的発想:「相手のバック側に強打して抜く」 ダブルス的発想:「相手の後衛をベースライン後方に下げることで、前衛との間にスペースを作る。そこを狙う」
相手ペアの**「前衛と後衛の距離」「左右の位置関係」**を崩すことが、ダブルスの戦術の核心です。
「点」より「面」で考える発想転換
シングルスは「点」の戦い。ボールをどこに打つか。
ダブルスは「面」の戦い。4人がどこに配置されているか、その空間全体を見る必要があります。
以前の記事「4つのゾーン」(第5話)で、前後のポジショニングを学びましたが、ダブルスではそれに加えて、左右の関係性と、ペア同士の距離感も同時に考える必要があるのです。
② ポジショニングの基準が違う ― “味方との角度”が命
シングルス:センターマークが基準
シングルスのポジショニングは比較的シンプルです。基本的にはセンターマーク(コート中央)を基準に、左右対称に動きます。
相手がクロスに打てば、自分もクロス寄りに動く。それだけです。
ダブルス:ペアとの角度が基準
ダブルスでは、ペアとの位置関係が最も重要な基準になります。
重要な原則
「どちらが前・後にいるか」ではなく、「ペアとの角度」が守備ラインを決める
具体的には:
- ペアが右にいれば、自分は左をカバー
- ペアが前にいれば、自分は後ろをカバー
- ペアと自分の間に大きなスペースができないように常に調整
この「ペアとの角度」を維持することが、ダブルスのポジショニングの基本です。
位置取りは常に「相手の打点」から逆算
さらに重要なのは、相手の打点を見て、そこから打てる範囲をカバーするという発想です。
シングルスでは「自分の次の打点」を考えますが、ダブルスでは「相手の打点から、どこに打たれる可能性があるか」を常に計算し、ペアと協力してその範囲を分担します。
これは、以前の記事「時間を奪い合うスポーツ」(第7話)で紹介した、時間と空間の概念とも関連します。相手の打点が早ければ、守備範囲は広くなり、逆に遅ければ狭くなります。
③ 考え方が違う ― “自分のショット”より”ペアが次に触れるか”
シングルス:自分のショットで決める
シングルスでは、「このショットで決める」「このショットで有利になる」という、自分中心の思考が基本です。
もちろん、次の展開も考えますが、基本的には自分のプレーに集中します。
ダブルス:次の1球をどうつなげるか
ダブルスでは、**「自分のショットが、ペアの次のプレーをどう助けるか」**という設計思考が必要です。
具体例
シングルス的思考 「相手のバックに深いボールを打って、優位に立とう」
ダブルス的思考 「相手のバックに深いボールを打つ→相手の返球が浅くなる→ペアが前でボレーできる→だから私はこう打つ」
自分のショットは、**ペアが次に触れるための”伏線”**なのです。
ペアの得意ショットに繋ぐ”伏線プレー”
さらに上級者になると、ペアの得意なショットを活かすために、自分のショットを選択します。
- ペアのボレーが得意なら、相手を下げるボールを打って、ペアがボレーできる状況を作る
- ペアのフォアハンドが強いなら、相手にフォア側へ打たせるようなボールを打つ
これが「伏線プレー」です。自分が主役になるのではなく、ペアを主役にするためのサポート。これがダブルスの醍醐味です。
この考え方は、以前の記事「ラリーは対話」(第8話)とも通じます。ダブルスは、相手との対話だけでなく、ペアとの対話でもあるのです。
④ 技術が違う ― 必須スキルはボレー・リターン・ロブ
シングルス:ストローク中心
シングルスでは、**ストローク(フォアハンド・バックハンド)**が最も重要な技術です。ベースラインから打ち合う時間が長いからです。
もちろん、サーブやボレーも大切ですが、試合の大半はストローク戦です。
ダブルス:「反射型の精度」が命
ダブルスでは、ストロークも重要ですが、それ以上に**「反射的に処理する技術」**が求められます。
ダブルスで特に重要な3つの技術
1. ボレー
- ローボレー(低い位置のボレー)
- ミドルボレー(体の中央に来たボレー)
- ポーチ(相手のクロスのボールを横取りするボレー)
ダブルスでは、ネットに詰める機会が多く、ボレーの精度が勝敗を分けます。特にローボレーとミドルボレーは、シングルスではあまり使わない技術ですが、ダブルスでは頻繁に必要になります。
2. リターン
シングルスでは、リターンは「返せればOK」というケースも多いですが、ダブルスではリターンの精度が極めて重要です。
なぜなら、相手の前衛がネットに詰めているため、甘いリターンは即座にボレーで決められてしまうからです。
- 低く
- 深く
- 相手前衛の足元に
この3つを意識したリターンが求められます。
3. ロブ
シングルスではロブは「守りのショット」というイメージですが、ダブルスでは**「攻撃的なロブ」**も重要な武器になります。
相手が前衛で詰めてきたとき、ロブで頭上を抜くことで、陣形を崩せます。また、守備的なロブで時間を作り、ポジションを立て直すこともできます。
ストローク中心ではなく「反射型の精度」
まとめると、ダブルスでは**「時間のないところで、正確に処理する技術」**が求められます。
シングルスのように、じっくり構えて打つ機会は少なく、瞬時の判断と反射的な処理が必要なのです。
⑤ 陥りやすい罠 ― シングルス脳のまま試合する
最後に、シングルスプレーヤーがダブルスで陥りやすい3つの罠を紹介します。これを避けるだけで、ダブルスの勝率は大きく上がります。
罠① ベースラインに張り付きすぎる
シングルス脳の思考 「ベースラインから打つのが基本。前に出るのは余裕があるときだけ」
ダブルスの正解 「積極的に前に詰める。ネットに近い方が有利」
シングルスでは、ベースラインでのラリーが基本ですが、ダブルスでは**「前に詰めた方が有利」**という大原則があります。
もちろん、雁行陣(一人が前、一人が後ろ)という陣形もありますが、最終的には両者が前に詰める平行陣を目指すのが理想です。
ベースラインに固執せず、チャンスがあれば積極的に前に出る。この発想の転換が必要です。
罠② 相手前衛を怖がって打点が浅くなる
シングルス脳の思考 「相手の前衛が怖い…ボレーされたくない…」
ダブルスの正解 「相手前衛の足元を狙えば、ボレーは怖くない」
ダブルス初心者が最も怖がるのが、相手の前衛です。「ボレーで決められるのでは…」という恐怖から、打点が浅くなり、結果的にボレーされやすくなる悪循環に陥ります。
でも、実は低く、深く、相手の足元を狙えば、前衛は脅威ではありません。
むしろ、中途半端に浅いボールを打つ方が、ボレーで決められやすいのです。
以前の記事「時間を奪い合うスポーツ」(第7話)で解説したように、低いボールは2バウンドまでの時間が短く、相手に時間を与えません。ダブルスでは、この「低いボール」が極めて重要な武器になります。
罠③ 「一人で頑張る」意識がペアを崩壊させる
シングルス脳の思考 「自分が頑張って取らなきゃ…」「ペアに迷惑をかけたくない…」
ダブルスの正解 「ペアと役割を分担し、お互いをカバーし合う」
シングルスでは、すべて自分一人で責任を負います。だから、「自分が頑張る」という意識が当然です。
でも、ダブルスで「一人で頑張る」意識を持つと、ペアとの連携が崩れます。
- 自分の範囲外のボールまで追ってしまう
- ペアに声をかけず、勝手に動く
- ミスをペアのせいにする、あるいは全部自分のせいにする
ダブルスは**「二人で一つのチーム」**です。一人が全てを背負う必要はありません。むしろ、役割を明確に分担し、お互いをカバーし合うことが、強いペアの条件です。
次回以降の記事で詳しく解説しますが、ダブルスでは「コミュニケーション」が技術と同じくらい重要なのです。
シングルス脳からダブルス脳へ:思考の切り替え
5つの違いを見てきました。ここで、思考の切り替えをまとめておきましょう。
| 項目 | シングルス脳 | ダブルス脳 |
|---|---|---|
| 戦術の目的 | 相手を抜く | 4人の位置関係を崩す |
| ポジショニング | センターマーク基準 | ペアとの角度基準 |
| 考え方 | 自分のショットで決める | ペアの次を作る伏線 |
| 技術 | ストローク中心 | ボレー・リターン・ロブ |
| 意識 | 一人で頑張る | 二人で一つのチーム |
この表を頭に入れて、ダブルスに臨んでください。「シングルスとは違う競技だ」という認識が、上達の第一歩です。
次回予告:陣形マスターへの道
今回は、ダブルスの基本として「シングルスとの違い」を学びました。
次回(第22話)は、**「陣形マスター」**として、雁行陣・平行陣・変則陣の使い分けと、陣形転換のタイミングを詳しく解説します。
陣形は、ダブルスの戦術の核心です。どの陣形を、いつ、どう使うか。これを理解することで、あなたのダブルスは一気にレベルアップします。
まとめ:ダブルスは「別競技」である
ダブルスは、シングルスの延長ではありません。全く別の競技です。
- 戦術の目的が違う
- ポジショニングの基準が違う
- 考え方が違う
- 必要な技術が違う
- 陥りやすい罠がある
この5つの違いを理解し、「シングルス脳」から「ダブルス脳」に切り替えることが、ダブルス上達の第一歩です。
そして、ダブルスには、シングルスにはない独特の面白さがあります。
- ペアとの連携の楽しさ
- 4人の位置関係を読む知的なゲーム性
- 瞬間的な判断と反射神経の勝負
- コミュニケーションの重要性
これらは、ダブルスでしか味わえない醍醐味です。
次回からさらに深く、ダブルスの世界を探求していきます。一緒に、ダブルスの達人を目指しましょう!
ダブルスは別競技。だからこそ、新しい世界が広がっている。
この言葉を胸に、次回もお楽しみに!


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