ダブルスの基本:シングルスとの5つの決定的な違い

テニス
  1. ダブルス=2人で戦うシングルス…ではない
  2. 第7部:ダブルス完全攻略シリーズ、スタート
  3. ① 戦術の目的が違う ― “抜く”ではなく”崩す”
    1. シングルス=1対1で相手を動かす
    2. ダブルス=4人の位置関係で”スペースを作る”
      1. 具体例
    3. 「点」より「面」で考える発想転換
  4. ② ポジショニングの基準が違う ― “味方との角度”が命
    1. シングルス:センターマークが基準
    2. ダブルス:ペアとの角度が基準
      1. 重要な原則
      2. 位置取りは常に「相手の打点」から逆算
  5. ③ 考え方が違う ― “自分のショット”より”ペアが次に触れるか”
    1. シングルス:自分のショットで決める
    2. ダブルス:次の1球をどうつなげるか
      1. 具体例
    3. ペアの得意ショットに繋ぐ”伏線プレー”
  6. ④ 技術が違う ― 必須スキルはボレー・リターン・ロブ
    1. シングルス:ストローク中心
    2. ダブルス:「反射型の精度」が命
      1. ダブルスで特に重要な3つの技術
    3. ストローク中心ではなく「反射型の精度」
  7. ⑤ 陥りやすい罠 ― シングルス脳のまま試合する
    1. 罠① ベースラインに張り付きすぎる
    2. 罠② 相手前衛を怖がって打点が浅くなる
    3. 罠③ 「一人で頑張る」意識がペアを崩壊させる
  8. シングルス脳からダブルス脳へ:思考の切り替え
  9. 次回予告:陣形マスターへの道
  10. まとめ:ダブルスは「別競技」である

ダブルス=2人で戦うシングルス…ではない

「シングルスは得意なんだけど、ダブルスになると途端に勝てない」 「ペアと息が合わない」 「ダブルスの動き方が分からない」

こんな悩みを持っている方は多いのではないでしょうか。

実は、これらの悩みには共通の原因があります。それは、ダブルスをシングルスの延長として考えてしまっていることです。

ダブルスは、決して「2人で戦うシングルス」ではありません。全く別の競技と言っても過言ではないのです。

同じコート、同じボール、同じラケットを使っていても、戦術の考え方、ポジショニングの基準、必要な技術、すべてが違います。

今回は、ダブルスをこれから始める方、シングルスからダブルスに移行したい方、そしてダブルスで伸び悩んでいる方のために、シングルスとダブルスの5つの決定的な違いを解説します。

まずは「別競技である」という認識から始めましょう。そうすれば、ダブルスの世界が一気に開けるはずです。

第7部:ダブルス完全攻略シリーズ、スタート

今回から始まる「ダブルス完全攻略シリーズ」では、ダブルスを体系的に、そして実践的に学んでいきます。

  • 第21話(今回):シングルスとの違い(基礎理解)
  • 第22話:陣形マスター(戦術の基本)
  • 第23話:配球理論(4人の位置関係)
  • 第24話:コミュニケーション術(ペアとの連携)
  • 第25話:MBTI×ダブルス(性格別戦略)

では、第1回として、まずは基本となる「5つの違い」から見ていきましょう。

① 戦術の目的が違う ― “抜く”ではなく”崩す”

シングルス=1対1で相手を動かす

シングルスの戦術は、基本的に**「相手を動かして、オープンコートを作る」**という発想です。

  • 相手を左右に振る
  • 前後に動かす
  • 体勢を崩してミスを誘う
  • 最後にオープンコートに打ち込む

1対1の対決なので、相手一人をコントロールすれば勝てます。

ダブルス=4人の位置関係で”スペースを作る”

一方、ダブルスは4人がコート上に存在します。この4人の位置関係が、すべてを決めます。

ダブルスの戦術の目的は、「相手を抜く」ことではなく、**「4人の位置関係を崩して、スペースを作る」**ことです。

具体例

シングルス的発想:「相手のバック側に強打して抜く」 ダブルス的発想:「相手の後衛をベースライン後方に下げることで、前衛との間にスペースを作る。そこを狙う」

相手ペアの**「前衛と後衛の距離」「左右の位置関係」**を崩すことが、ダブルスの戦術の核心です。

「点」より「面」で考える発想転換

シングルスは「点」の戦い。ボールをどこに打つか。

ダブルスは「面」の戦い。4人がどこに配置されているか、その空間全体を見る必要があります。

以前の記事「4つのゾーン」(第5話)で、前後のポジショニングを学びましたが、ダブルスではそれに加えて、左右の関係性と、ペア同士の距離感も同時に考える必要があるのです。

② ポジショニングの基準が違う ― “味方との角度”が命

シングルス:センターマークが基準

シングルスのポジショニングは比較的シンプルです。基本的にはセンターマーク(コート中央)を基準に、左右対称に動きます。

相手がクロスに打てば、自分もクロス寄りに動く。それだけです。

ダブルス:ペアとの角度が基準

ダブルスでは、ペアとの位置関係が最も重要な基準になります。

重要な原則

「どちらが前・後にいるか」ではなく、「ペアとの角度」が守備ラインを決める

具体的には:

  • ペアが右にいれば、自分は左をカバー
  • ペアが前にいれば、自分は後ろをカバー
  • ペアと自分の間に大きなスペースができないように常に調整

この「ペアとの角度」を維持することが、ダブルスのポジショニングの基本です。

位置取りは常に「相手の打点」から逆算

さらに重要なのは、相手の打点を見て、そこから打てる範囲をカバーするという発想です。

シングルスでは「自分の次の打点」を考えますが、ダブルスでは「相手の打点から、どこに打たれる可能性があるか」を常に計算し、ペアと協力してその範囲を分担します。

これは、以前の記事「時間を奪い合うスポーツ」(第7話)で紹介した、時間と空間の概念とも関連します。相手の打点が早ければ、守備範囲は広くなり、逆に遅ければ狭くなります。

③ 考え方が違う ― “自分のショット”より”ペアが次に触れるか”

シングルス:自分のショットで決める

シングルスでは、「このショットで決める」「このショットで有利になる」という、自分中心の思考が基本です。

もちろん、次の展開も考えますが、基本的には自分のプレーに集中します。

ダブルス:次の1球をどうつなげるか

ダブルスでは、**「自分のショットが、ペアの次のプレーをどう助けるか」**という設計思考が必要です。

具体例

シングルス的思考 「相手のバックに深いボールを打って、優位に立とう」

ダブルス的思考 「相手のバックに深いボールを打つ→相手の返球が浅くなる→ペアが前でボレーできる→だから私はこう打つ」

自分のショットは、**ペアが次に触れるための”伏線”**なのです。

ペアの得意ショットに繋ぐ”伏線プレー”

さらに上級者になると、ペアの得意なショットを活かすために、自分のショットを選択します。

  • ペアのボレーが得意なら、相手を下げるボールを打って、ペアがボレーできる状況を作る
  • ペアのフォアハンドが強いなら、相手にフォア側へ打たせるようなボールを打つ

これが「伏線プレー」です。自分が主役になるのではなく、ペアを主役にするためのサポート。これがダブルスの醍醐味です。

この考え方は、以前の記事「ラリーは対話」(第8話)とも通じます。ダブルスは、相手との対話だけでなく、ペアとの対話でもあるのです。

④ 技術が違う ― 必須スキルはボレー・リターン・ロブ

シングルス:ストローク中心

シングルスでは、**ストローク(フォアハンド・バックハンド)**が最も重要な技術です。ベースラインから打ち合う時間が長いからです。

もちろん、サーブやボレーも大切ですが、試合の大半はストローク戦です。

ダブルス:「反射型の精度」が命

ダブルスでは、ストロークも重要ですが、それ以上に**「反射的に処理する技術」**が求められます。

ダブルスで特に重要な3つの技術

1. ボレー

  • ローボレー(低い位置のボレー)
  • ミドルボレー(体の中央に来たボレー)
  • ポーチ(相手のクロスのボールを横取りするボレー)

ダブルスでは、ネットに詰める機会が多く、ボレーの精度が勝敗を分けます。特にローボレーとミドルボレーは、シングルスではあまり使わない技術ですが、ダブルスでは頻繁に必要になります。

2. リターン

シングルスでは、リターンは「返せればOK」というケースも多いですが、ダブルスではリターンの精度が極めて重要です。

なぜなら、相手の前衛がネットに詰めているため、甘いリターンは即座にボレーで決められてしまうからです。

  • 低く
  • 深く
  • 相手前衛の足元に

この3つを意識したリターンが求められます。

3. ロブ

シングルスではロブは「守りのショット」というイメージですが、ダブルスでは**「攻撃的なロブ」**も重要な武器になります。

相手が前衛で詰めてきたとき、ロブで頭上を抜くことで、陣形を崩せます。また、守備的なロブで時間を作り、ポジションを立て直すこともできます。

ストローク中心ではなく「反射型の精度」

まとめると、ダブルスでは**「時間のないところで、正確に処理する技術」**が求められます。

シングルスのように、じっくり構えて打つ機会は少なく、瞬時の判断と反射的な処理が必要なのです。

⑤ 陥りやすい罠 ― シングルス脳のまま試合する

最後に、シングルスプレーヤーがダブルスで陥りやすい3つの罠を紹介します。これを避けるだけで、ダブルスの勝率は大きく上がります。

罠① ベースラインに張り付きすぎる

シングルス脳の思考 「ベースラインから打つのが基本。前に出るのは余裕があるときだけ」

ダブルスの正解 「積極的に前に詰める。ネットに近い方が有利」

シングルスでは、ベースラインでのラリーが基本ですが、ダブルスでは**「前に詰めた方が有利」**という大原則があります。

もちろん、雁行陣(一人が前、一人が後ろ)という陣形もありますが、最終的には両者が前に詰める平行陣を目指すのが理想です。

ベースラインに固執せず、チャンスがあれば積極的に前に出る。この発想の転換が必要です。

罠② 相手前衛を怖がって打点が浅くなる

シングルス脳の思考 「相手の前衛が怖い…ボレーされたくない…」

ダブルスの正解 「相手前衛の足元を狙えば、ボレーは怖くない」

ダブルス初心者が最も怖がるのが、相手の前衛です。「ボレーで決められるのでは…」という恐怖から、打点が浅くなり、結果的にボレーされやすくなる悪循環に陥ります。

でも、実は低く、深く、相手の足元を狙えば、前衛は脅威ではありません

むしろ、中途半端に浅いボールを打つ方が、ボレーで決められやすいのです。

以前の記事「時間を奪い合うスポーツ」(第7話)で解説したように、低いボールは2バウンドまでの時間が短く、相手に時間を与えません。ダブルスでは、この「低いボール」が極めて重要な武器になります。

罠③ 「一人で頑張る」意識がペアを崩壊させる

シングルス脳の思考 「自分が頑張って取らなきゃ…」「ペアに迷惑をかけたくない…」

ダブルスの正解 「ペアと役割を分担し、お互いをカバーし合う」

シングルスでは、すべて自分一人で責任を負います。だから、「自分が頑張る」という意識が当然です。

でも、ダブルスで「一人で頑張る」意識を持つと、ペアとの連携が崩れます。

  • 自分の範囲外のボールまで追ってしまう
  • ペアに声をかけず、勝手に動く
  • ミスをペアのせいにする、あるいは全部自分のせいにする

ダブルスは**「二人で一つのチーム」**です。一人が全てを背負う必要はありません。むしろ、役割を明確に分担し、お互いをカバーし合うことが、強いペアの条件です。

次回以降の記事で詳しく解説しますが、ダブルスでは「コミュニケーション」が技術と同じくらい重要なのです。

シングルス脳からダブルス脳へ:思考の切り替え

5つの違いを見てきました。ここで、思考の切り替えをまとめておきましょう。

項目シングルス脳ダブルス脳
戦術の目的相手を抜く4人の位置関係を崩す
ポジショニングセンターマーク基準ペアとの角度基準
考え方自分のショットで決めるペアの次を作る伏線
技術ストローク中心ボレー・リターン・ロブ
意識一人で頑張る二人で一つのチーム

この表を頭に入れて、ダブルスに臨んでください。「シングルスとは違う競技だ」という認識が、上達の第一歩です。

次回予告:陣形マスターへの道

今回は、ダブルスの基本として「シングルスとの違い」を学びました。

次回(第22話)は、**「陣形マスター」**として、雁行陣・平行陣・変則陣の使い分けと、陣形転換のタイミングを詳しく解説します。

陣形は、ダブルスの戦術の核心です。どの陣形を、いつ、どう使うか。これを理解することで、あなたのダブルスは一気にレベルアップします。

まとめ:ダブルスは「別競技」である

ダブルスは、シングルスの延長ではありません。全く別の競技です。

  • 戦術の目的が違う
  • ポジショニングの基準が違う
  • 考え方が違う
  • 必要な技術が違う
  • 陥りやすい罠がある

この5つの違いを理解し、「シングルス脳」から「ダブルス脳」に切り替えることが、ダブルス上達の第一歩です。

そして、ダブルスには、シングルスにはない独特の面白さがあります。

  • ペアとの連携の楽しさ
  • 4人の位置関係を読む知的なゲーム性
  • 瞬間的な判断と反射神経の勝負
  • コミュニケーションの重要性

これらは、ダブルスでしか味わえない醍醐味です。

次回からさらに深く、ダブルスの世界を探求していきます。一緒に、ダブルスの達人を目指しましょう!

ダブルスは別競技。だからこそ、新しい世界が広がっている。

この言葉を胸に、次回もお楽しみに!

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