強いペアほど”会話がうまい”
前回まで、ダブルスの陣形(第22話)と配球理論(第23話)を学んできました。戦術的な知識は身につきました。
でも、どんなに優れた戦術を知っていても、ペアとのコミュニケーションが取れていなければ、ダブルスでは勝てません。
ダブルスを見ていると、不思議なことに気づきます。技術的には同じレベルなのに、あるペアは連戦連勝、別のペアはなかなか勝てない。
その差は、技術ではありません。コミュニケーションの質なのです。
強いペアほど、会話がうまい。声かけ・表情・沈黙のタイミング。これらすべてが計算されています。
試合中の1秒の言葉が、勝敗を左右する。
今回は、ペアとのコミュニケーション術を、試合中の具体的な声かけから、役割分担の決め方、そしてトラブル時の関係修復まで、徹底的に解説します。
これをマスターすれば、あなたとペアは「ただの二人」から「最強のチーム」へと進化するはずです。
① 試合中の効果的な声かけ
ミス後の声かけ:「切り替え」ではなく「事実+前向き」
ダブルスで最も重要な声かけのタイミングが、ペアがミスをした直後です。
多くの人は、こう言います。
「ドンマイ!」 「次!次!」 「気にしない気にしない!」
悪くはありません。でも、最高でもありません。
なぜ「ドンマイ」だけでは不十分か
「ドンマイ」は、慰めの言葉です。でも、ミスをした本人は、慰められたいわけではありません。次のポイントをどう取るかを知りたいのです。
抽象的な励ましより、具体的な前向きの指針の方が、はるかに効果的です。
効果的な声かけの公式
「事実の肯定」+「次への提案」
具体例を見てみましょう。
ペアがミスをした場合
❌ 「ドンマイ!」(抽象的)
⭕ 「コースは良かった。次はもう少し深く打とう」(事実+提案)
⭕ 「いい判断だった。あと少しで決まってたよ」(肯定+励まし)
⭕ 「OK!次は相手のフォアに集めよう」(切り替え+戦術提案)
ポイント
- ミスそのものを否定しない:「なんで!」「もったいない!」は禁句
- 良かった部分を見つける:「判断は良かった」「コースは悪くない」
- 次への具体的な提案を添える:「次は〇〇しよう」
この公式を使うことで、ペアは「責められている」と感じるのではなく、「一緒に戦っている」と感じます。
以前の記事「モメンタム理論」(第19話)で学んだように、ミスの後のリセットが重要です。声かけは、ペアをリセットさせる最も効果的な方法なのです。
サーブ前のルーティン会話例
もう一つ重要なタイミングが、サーブの前です。
ここでの短い会話が、そのゲームの方向性を決めます。
具体的な会話例
後衛(サーバー)から前衛へ
「ワイドに打つから、ポーチ頼む」 「センター狙うから、ストレート警戒して」 「とにかく入れるから、守り重視で」
前衛から後衛へ
「思い切って打って!俺がカバーする」 「1stは攻めよう。2ndは無理しないで」 「リターン読めたら動くね」
ポイント
- 短く、明確に:長い説明は不要。10秒以内で。
- サーブの意図を共有:どこに打つかを伝えることで、前衛が動きやすくなる
- 役割を確認:誰が何をするかを明確に
これは、以前の記事「ダブルスの基本」(第21話)で学んだ「ペアとの連携」の実践です。
表情・アイコンタクトの使い方
言葉だけがコミュニケーションではありません。表情とアイコンタクトも強力なツールです。
ポイントを取った後
良い例
- 笑顔でハイタッチ
- 力強いガッツポーズ(ペアと一緒に)
- アイコンタクトで「いいね!」のサイン
悪い例
- 一人だけ喜んで、ペアを見ない
- 無表情で次のポイントへ
- ペアの方を向かずに自分の世界に入る
ミスをした後
良い例
- ペアの目を見て、「次いこう」と頷く
- 自分からペアに近づいて、軽く手を上げる
- 落ち着いた表情で、「大丈夫」というサインを送る
悪い例
- 下を向いて、ペアを見ない
- ため息をつく
- イライラした表情を見せる
なぜ重要か
表情とアイコンタクトは、無意識レベルでペアに影響を与えます。
あなたが不安そうな顔をすれば、ペアも不安になります。 あなたが自信に満ちた表情をすれば、ペアも勇気づけられます。
MBTI記事(第15-17話)で学んだように、人はタイプによって外部からのエネルギーの影響を受けやすさが違います。特にE型(外向型)のペアは、あなたの表情から大きく影響を受けます。
沈黙も武器:言わない選択
重要なのは、何を言うかだけではなく、何を言わないかです。
言わない方が良い言葉
❌ 「またミスった」 ❌ 「さっきも同じミスしたじゃん」 ❌ 「俺が全部やるから」 ❌ 「もう無理かも」
これらは、ペアのモチベーションを下げるだけです。
沈黙が効果的な場面
ペアが明らかに落ち込んでいる時 → 無理に励ます必要はありません。静かに隣にいて、次のポイントに向かう。その「何も言わない支え」が、時には言葉より強いのです。
自分が感情的になりそうな時 → 怒りや不満を言葉にする前に、深呼吸。沈黙を選ぶことで、関係の悪化を防げます。
② 役割分担の決め方
強いペアには、明確な役割分担があります。
「二人とも同じことをする」のではなく、「それぞれの強みを活かした役割を持つ」。これがチームとして機能する秘訣です。
攻撃型と安定型をどう組むか
ダブルスのペアリングで最も基本的なのが、攻撃型と安定型の組み合わせです。
攻撃型プレイヤーの特徴
- ボレーが得意
- リスクを取って攻めることができる
- 決定力がある
- ミスも多いが、決まるときは一撃
安定型プレイヤーの特徴
- ストロークが安定している
- ラリーを続けられる
- ミスが少ない
- じわじわと相手を崩す
理想的な組み合わせ
攻撃型+安定型
安定型が土台を作り、攻撃型が決める。この役割分担が最も機能しやすいです。
役割の具体例
- 安定型:ラリーで相手を崩す、守備を固める、長いラリーを担当
- 攻撃型:ポーチで決める、ショートポイントで取る、プレッシャーをかける
同じタイプ同士の場合
攻撃型×攻撃型 → 短期決戦型。決定力は高いが、ミスも増える。サーブゲームは強いが、リターンゲームで苦戦することも。
安定型×安定型 → 粘り強い。守備は堅いが、決定力に欠ける。ポイントが長くなり、体力勝負になりがち。
どちらも、役割を明確に分けることが重要です。
「今日は俺が攻める役、君は守る役」 「前半は僕が攻めるから、後半は交代」
など、柔軟に役割を決めましょう。
前衛がリーダーか、後衛が戦略家か
もう一つの役割分担が、リーダーシップです。
パターン①:前衛リーダー型
特徴
- 前衛が声を出し、ペアを鼓舞する
- 前衛が戦術を提案し、後衛が実行する
- 前衛が積極的に動き、後衛はそれをサポート
向いているペア
- 前衛が経験豊富、または性格的にリーダータイプ
- 後衛が冷静で、サポート役が得意
パターン②:後衛戦略家型
特徴
- 後衛が全体を見渡し、戦術を組み立てる
- 後衛が指示を出し、前衛が実行する
- 後衛がラリーを支配し、前衛が仕上げる
向いているペア
- 後衛がダブルスの経験が豊富、または戦術理解が深い
- 前衛が機動力があり、指示に素早く反応できる
重要なのは「どちらかが決める」こと
どちらのパターンでも良いのですが、どちらか一方が明確にリーダーシップを取ることが重要です。
両者が遠慮して指示を出さないと、戦術が曖昧になります。 両者が同時に指示を出すと、混乱が生まれます。
試合前、または普段の練習で、「今日は君がリーダーね」と決めておくことをおすすめします。
ペアを「攻守ユニット」として捉える思考
最も高度な役割分担の考え方が、攻守ユニット思考です。
これは、二人を個別のプレイヤーとして見るのではなく、**一つの攻守ユニット(チーム)**として捉える発想です。
具体的な考え方
「自分が攻撃したら、ペアは守備」 「自分が前に出たら、ペアは後ろをカバー」 「自分が右に動いたら、ペアは左をカバー」
常に補完関係を意識します。
これは、以前の記事「ダブルスの基本」(第21話)で学んだ「ペアとの角度」の考え方と同じです。
シーソーの原理
二人の役割は、シーソーのようなものです。
一方が攻めに傾けば、もう一方は守りに傾く。 一方が前に出れば、もう一方は後ろに残る。
このバランス感覚が、強いペアの特徴です。
③ トラブル時の関係修復術
どんなに仲の良いペアでも、試合中にトラブルは起こります。
ミスの連続、意見の食い違い、感情的な衝突。これらを乗り越える技術が、最強のペアには必要です。
「ごめん」はNGワード?(謝罪より切替)
ダブルスでよく聞く言葉が「ごめん」です。
ミスをした後、つい「ごめん」と謝ってしまう。これは自然な反応ですが、実はあまり効果的ではありません。
なぜ「ごめん」が良くないか
理由①:過去に焦点が当たる 「ごめん」と言うことで、意識が「さっきのミス」に向いてしまいます。でも大切なのは「次のポイント」です。
理由②:ペアに気を使わせる 「ごめん」と言われると、ペアは「大丈夫だよ」と返さなければなりません。この時間が、集中を途切れさせます。
理由③:自己否定のサイクル 「ごめん」を繰り返すことで、自分自身が「自分はダメだ」という思考に入ってしまいます。
では、何と言うべきか
「次いこう」 「切り替え」 「OK!」
これらは、過去ではなく未来に焦点を当てる言葉です。
もし何か言わなければならない状況なら、
「ナイストライ」(挑戦したことを肯定) 「今のは難しかった」(事実を認める)
など、謝罪ではなく事実の共有にとどめましょう。
ただし、例外もある
明らかに自分のミスでペアに迷惑をかけた場合(コールミス、ボールの取り合いなど)は、簡潔に「悪い」と一言だけ。
そして、すぐに次に切り替える。長々と謝らないことが重要です。
感情的対立を防ぐための”リセットルール”
試合中、ペアとの間に緊張が走ることがあります。
- 連続で失点している
- 作戦がうまくいかない
- お互いの動きが合わない
こんな時、感情的な対立に発展しないためのリセットルールを、事前に決めておくことをおすすめします。
リセットルール例
ルール①:タイムアウト信号
事前に決めた合図(例:手を広げる)を出したら、お互い一旦冷静になる時間を取る。
ルール②:チェンジコート時のリセット
コートチェンジの時に、必ず「今までのことはリセット。次のセットから仕切り直し」と確認する。
ルール③:沈黙の時間
お互いがイライラしている時は、無理に話さない。沈黙を許容する。次のポイントに集中する。
ルール④:ポジティブ強制ルール
どんなに苦しい状況でも、「1つ良かったことを言う」と決めておく。
「さっきのリターンは良かった」 「粘れてるから、チャンスは来る」
なぜリセットルールが効果的か
事前にルールを決めておくことで、感情的な反応を防げます。
「約束したルールだから、従おう」という理性が働き、感情に流されにくくなるのです。
試合後のフィードバック会話術
試合中だけでなく、試合後のコミュニケーションも重要です。
ここでの会話が、次の試合への成長につながります。
良いフィードバックの流れ
ステップ①:良かった点から始める
「今日は前衛の動きが良かったね」 「リターンの精度が上がってた」
必ず、良かった点から始めることで、ポジティブな雰囲気を作ります。
ステップ②:改善点は「提案」として
「次は〇〇を試してみない?」 「〇〇の場面で、こうしたらもっと良いかも」
「ダメだった」ではなく、「こうしたらもっと良くなる」という提案形式で。
ステップ③:次への期待を共有
「次の試合、楽しみだね」 「今日の経験を活かして、次は勝とう」
前向きな言葉で締めくくることで、モチベーションを維持します。
避けるべきフィードバック
❌ 「あのミスがなければ勝てた」(過去への執着) ❌ 「やっぱり君は〇〇が苦手だよね」(否定的なレッテル) ❌ 「次はちゃんとして」(抽象的で建設的でない)
以前の記事「試合後の振り返りノート」(第14話)で学んだように、感情と事実を切り離し、建設的な振り返りをすることが重要です。
ペアとのフィードバックも、同じ原則が適用されます。
コミュニケーションを円滑にする日常の習慣
試合中のコミュニケーションを良くするには、日常からの関係構築が不可欠です。
練習での習慣
習慣①:毎回、ポジティブな声かけを10回
練習中、意識的にポジティブな声かけを10回すると決めます。
「ナイスショット!」 「今のコース良かった!」 「動き良いね!」
これを習慣化することで、試合でも自然と出るようになります。
習慣②:ペアの得意・苦手を理解する
練習を通じて、ペアの得意なショット、苦手な場面を把握します。
そして、得意を活かし、苦手をカバーする役割を自然と取れるようになります。
習慣③:失敗を責めない文化
練習から、失敗を責めない雰囲気を作ります。
ミスをしても「ナイストライ!」と言い合う。この文化が、試合でのプレッシャーを軽減します。
試合前の習慣
習慣①:役割の確認
「今日は俺が攻め役ね」 「俺がリーダーシップ取るから、任せて」
試合前に、簡単に役割を確認します。
習慣②:リセットルールの確認
「もしイライラしたら、この合図でリセットね」
事前に決めたリセットルールを、再確認します。
習慣③:ポジティブな期待の共有
「今日は絶対楽しもう」 「今日の練習の成果、出そうね」
前向きな期待を共有することで、リラックスして試合に臨めます。
MBTI別:ペアとのコミュニケーション戦略
以前のMBTIシリーズ(第15-17話)の応用として、ペアのタイプ別にコミュニケーション戦略を調整することも効果的です。
E型(外向型)のペア
- 声をかけて欲しいタイプ
- 積極的にハイタッチやガッツポーズ
- 試合中も会話を多めに
I型(内向型)のペア
- 静かに集中したいタイプ
- 必要最小限の声かけで良い
- アイコンタクトで十分なことも
T型(思考型)のペア
- 論理的な戦術提案を好む
- 「次はこうしよう」という具体的指示が効果的
- 感情的な励ましより、事実ベースの会話
F型(感情型)のペア
- 感情的な支えを求めるタイプ
- 「大丈夫」「一緒に頑張ろう」という言葉が効く
- ポジティブな雰囲気作りが重要
ペアのタイプを理解し、それに合わせたコミュニケーションを取ることで、より強固な関係を築けます。
次回予告:MBTI×ダブルス、シリーズ完結
今回は、ペアとのコミュニケーション術を学びました。声かけ、役割分担、トラブル対処。これらをマスターすることで、あなたとペアの絆は深まります。
次回(第25話)は、ダブルス完全攻略シリーズの最終回、**「MBTI×ダブルス:性格タイプ別ペアリング戦略」**です。
16のMBTIタイプを、ダブルスのペアリングという視点から徹底分析します。どのタイプ同士が相性が良いのか、どう補完し合えば最強のペアになれるのか。
MBTIシリーズとダブルスシリーズの集大成として、最高の内容をお届けします。
まとめ:コミュニケーションは技術である
ダブルスにおいて、コミュニケーションは単なる「おしゃべり」ではありません。技術です。
- 効果的な声かけの公式
- 明確な役割分担
- トラブルを防ぐリセットルール
- 試合後の建設的なフィードバック
これらはすべて、学び、練習し、習得できる技術です。
最強のペアは、最高のコミュニケーターである。
技術が同じでも、コミュニケーションの質で勝敗が決まる。これがダブルスの真実です。
次回で、ダブルス完全攻略シリーズは完結します。最後まで、一緒に学んでいきましょう!


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