同じ試合を観ても、学べる人と観るだけの人がいる
「錦織選手のフォアハンド、すごい!」
「ジョコビッチのリターン、信じられない!」
プロの試合を観て、こう感動する。
これは、素晴らしいことです。
でも、ここで終わってしまうのは、もったいない。
同じ試合を観ても、学べる人と観るだけの人がいます。
その差は、「どこを見ているか」です。
今回は、プロの試合を「教材」として使うための観戦法を紹介します。
推し選手のプレーを、「なぜそう打ったのか」という視点で観れば、明日からの自分の練習が変わります。
第31話から第33話で、自分・仲間・対戦相手を観る技術を学びました。
今回は、その最終段階です。プロの試合を観る技術を解説します。
プロ観戦を「感動」で終わらせないために
見るべきはショットではなく「準備」と「判断」
プロの試合を観る時、多くの人はこう観ます。
「うわー、速いサーブ!」
「すごいフォアハンド!」
「信じられないアングルショット!」
これは、「結果」を観ています。
でも、学びが深いのは、「プロセス」を観ることです。
結果を観る vs プロセスを観る
結果を観る
- 「すごいショットだ!」
- 「信じられない!」
- 感動して終わり
プロセスを観る
- 「なぜ、そのショットを選んだのか?」
- 「どうやって、そのポジションに入ったのか?」
- 「打つ前に、何を見ていたのか?」
プロセスを観ることで、学びに変わります。
具体例:フェデラーのフォアハンド
結果を観る
「フェデラーのフォアハンド、すごい!あんなショット、打ちたい!」
プロセスを観る
「あのフォアハンドを打つ前、フェデラーは何をしていたか?」
- 相手のショットが浅かった
- フェデラーは、すぐに前に出た(早い準備)
- 相手のポジションを見た(相手が右にいる)
- オープンスペース(左側)に打ち込んだ
学び
「フェデラーは、相手のショットが浅い瞬間に、すぐに前に出ている」
「そして、相手のポジションを確認して、オープンスペースに打っている」
「自分も、浅いボールが来たら、すぐに前に出る習慣をつけよう」
このように、プロセスを観ることで、具体的な学びになります。
第28話「中上級者のシングルス戦術」で学んだように、上級者は「準備」と「判断」が優れています。プロの準備と判断を観察することで、自分の戦術が磨かれます。
テレビ観戦でもコート観戦でも、観察軸を持つ
プロの試合を観る方法は、2つあります。
- テレビ観戦(テレビ、ネット配信)
- コート観戦(会場で直接観る)
どちらでも、観察軸を持つことが重要です。
テレビ観戦の利点
利点
- カメラが選手を追うので、表情やボールの軌道が分かりやすい
- スロー再生で、フォームを詳しく観察できる
- 解説者のコメントで、戦術が理解できる
観察のコツ
- スロー再生で、フットワークやフォームを観る
- 解説者の「なぜそう打ったか」の説明に注目
- ポイント間の選手の表情や仕草を観る
コート観戦の利点
利点
- コート全体が見えるので、ポジショニングが分かる
- 選手の動きの全体像が見える
- ボールのスピード感、音、雰囲気が分かる
観察のコツ
- カメラが映さない「ボールを打っていない時の動き」を観る
- ポイント間で、選手がどこを見ているか観る
- 相手との駆け引きを観る
どちらの観戦でも、「なぜそう打ったか」を考えながら観ることが重要です。
観戦で注目すべき3つのポイント
プロの試合を観る時、何に注目すればいいのでしょうか?
3つのポイントがあります。
① フットワークの方向(なぜそこに動いたか)
プロの試合を観る時、ボールではなく、選手の足を観ましょう。
なぜなら、足の動きが、すべてを決めているからです。
観察項目
打つ前の動き
- ボールを打った後、どこに動いているか
- 打った瞬間、次のポジションに移動しているか
予測の動き
- 相手が打つ前に、動き出しているか
- どのタイミングで動き出しているか
リカバリー(戻る動き)
- ボールを打った後、どこに戻っているか
- センターに戻るか、それとも別の場所か
具体例:ナダルのフットワーク
観察
- ナダルがフォアハンドを打った
- 打った瞬間、すでに次のポジション(センター)に移動している
- 相手が打つ前に、構えが完成している
学び
「ナダルは、打った瞬間に次の準備をしている」
「自分も、打った後すぐに次のポジションに移動する習慣をつけよう」
なぜフットワークを観るのか
プロのショットは、速すぎて真似できません。
でも、フットワークは真似できます。
- 打った後、すぐに動く
- 相手が打つ前に、予測して動く
- 常に構えを作る
この動きのパターンを観察して、真似することができます。
第10話「運動神経」で学んだように、テニスの運動神経は、反応の速さと予測の能力です。プロのフットワークを観察することで、予測の能力が磨かれます。
② ポジショニングの深さ(ベースラインとの距離)
プロの選手は、ポジショニングが絶妙です。
どこに立つかで、試合の主導権が変わります。
観察項目
攻撃時のポジション
- 攻めている時、どこに立っているか
- ベースラインより前か、後ろか
守備時のポジション
- 守っている時、どこに立っているか
- どこまで下がるか
ポジションの変化
- 相手のショットに応じて、どうポジションを変えているか
具体例:ジョコビッチのポジショニング
観察
- ジョコビッチは、相手が守勢の時、ベースラインの前に立つ
- 相手が攻めてきた時、ベースラインの後ろに下がる
- でも、すぐに前に戻る
学び
「ジョコビッチは、ポジションを頻繁に変えている」
「攻めている時は前、守っている時は後ろ」
「自分も、ポジションを意識して変えてみよう」
なぜポジショニングを観るのか
ポジショニングは、戦術の核です。
前に立てば、時間を奪える。後ろに立てば、時間を作れる。
プロは、このポジションの使い分けが絶妙です。
第7話「時間を奪い合うスポーツ」で学んだように、ポジショニングが時間のコントロールを決めます。プロのポジショニングを観察することで、時間の使い方が分かります。
③ ポイント間の振る舞い(リセット・切替)
プロの試合を観る時、ポイント間も観ましょう。
なぜなら、ポイント間の振る舞いが、次のポイントを決めるからです。
観察項目
ミスした後
- ミスした後、どういう仕草をするか
- うなだれるか、すぐに切り替えるか
- 次のポイントまで、何をしているか
ポイントを取った後
- ポイントを取った後、どういう仕草をするか
- ガッツポーズをするか、淡々としているか
- 次のポイントまで、どうリセットしているか
呼吸・表情
- 呼吸は深いか、浅いか
- 表情は険しいか、リラックスしているか
具体例:フェデラーのポイント間
観察
- フェデラーは、ミスした後も表情が変わらない
- 淡々と次のポイントに向かう
- ポイント間で、深呼吸をして、リセットしている
学び
「フェデラーは、ミスを引きずらない」
「ポイント間で、深呼吸してリセットしている」
「自分も、ミスした後、深呼吸してリセットしよう」
なぜポイント間を観るのか
ポイント間の振る舞いは、メンタルのコントロールを表しています。
プロでも、ミスはします。
でも、ミスを引きずらない技術を持っています。
第17話「タイプ別メンタル傾向と立て直し方」で学んだように、立て直しの方法は人それぞれです。プロがどう立て直しているかを観察することで、自分の立て直し方のヒントが得られます。
観戦メモの取り方例
プロの試合を観たら、メモを取りましょう。
記憶だけでは、忘れてしまいます。
「印象的なポイント」を時間付きでメモ
メモするのは、印象的なポイントだけでいいです。
すべてを記録する必要はありません。
メモの例
試合:フェデラー vs ナダル(2019年ウィンブルドン決勝)
1. 第1セット 3-2、40-30
- フェデラーがサーブ→ナダルのリターンが浅い→フェデラーが前に出てアプローチショット→ネットに詰める→ボレーで決める
- 学び:浅いリターンを見たら、すぐに前に出る判断
2. 第2セット 5-4、30-30
- ナダルが深いトップスピンで相手を後ろに押し込む→フェデラーが後ろに下がる→ナダルがドロップショット→フェデラーが追いつけない
- 学び:深いボールで相手を後ろに固定してから、ドロップショット
3. 第3セット 2-2、ブレークポイント
- フェデラーがミスした→ポイント間で深呼吸→表情が変わらない→次のポイント、すぐにブレークバック
- 学び:ミスした後、深呼吸してリセット。次のポイントに集中
このように、印象的なポイントだけを記録します。
“なぜそれが有効だったか”を一言で書く
メモするのは、事実と学びの2つです。
- 事実:何が起こったか
- 学び:なぜそれが有効だったか、自分に応用できることは何か
メモの構造
【事実】
- フェデラーが浅いリターンを見て、すぐに前に出た
【学び】
- 浅いボールが来たら、すぐに前に出る判断が重要
このように、シンプルに記録することが重要です。
第14話「試合後の振り返りノート術」で学んだように、記録は簡潔に、要点だけを書くことが継続の鍵です。
観戦は最強のイメージトレーニング
プロの試合を観ることは、イメージトレーニングになります。
なぜなら、観た動きを頭の中で再現するだけでも、上達するからです。
観た動きを頭の中で再現するだけでも上達する
スポーツ科学の研究では、イメージトレーニングの効果が証明されています。
- 頭の中で動きをイメージすると、脳の運動野が活性化する
- 実際に体を動かさなくても、運動能力が向上する
つまり、プロの試合を観て、その動きをイメージするだけで、上達するのです。
イメージトレーニングの方法
ステップ①:観る
- プロの試合を観る
- フットワーク、ポジショニング、ショット選択を観察
ステップ②:イメージする
- 目を閉じて、その動きを頭の中で再現する
- 「自分がフェデラーだったら、こう動く」とイメージ
ステップ③:練習で試す
- 次の練習で、イメージした動きを試してみる
- 「フェデラーみたいに、浅いボールが来たら、すぐに前に出てみよう」
このように、観る→イメージする→試すの3ステップで、上達します。
見る→真似る→再現するの3ステップが理想
プロの試合を観る時、この3ステップを意識しましょう。
ステップ①:見る
- プロの動きを観察する
- 「なぜそう動いたか」を考える
ステップ②:真似る
- プロの動きを、頭の中で真似る
- 自分がその場面にいたら、どう動くかイメージする
ステップ③:再現する
- 練習で、その動きを試してみる
- 試合で、その戦術を使ってみる
具体例:ジョコビッチのリターン
ステップ①:見る
- ジョコビッチのリターンを観る
- リターン位置は、ベースラインのすぐ後ろ
- 早い打点(ライジング)で返している
- 深く返して、相手を後ろに押し込んでいる
ステップ②:真似る
- 頭の中で、ジョコビッチのリターンをイメージする
- 「自分も、ベースラインのすぐ後ろに立ってみよう」
- 「早い打点で、深く返すイメージを持とう」
ステップ③:再現する
- 次の練習で、リターン位置をベースラインのすぐ後ろにしてみる
- 早い打点で打つ練習をする
- 試合で、深いリターンを意識する
このように、見る→真似る→再現するの3ステップで、プロの技術を自分のものにできます。
第13話「ゲーム・ベースド・アプローチ」で学んだように、実戦で使える技術を身につけることが重要です。プロの試合を観察して、実戦で試すことで、技術が身につきます。
プロ観戦で避けるべき3つの罠
プロの試合を観る時、注意すべきことがあります。
罠①:レベルの違いを忘れる
プロのショットは、圧倒的に速くて、正確です。
でも、それをそのまま真似しようとすると、失敗します。
避けるべき考え方
「フェデラーみたいに、あの速いフォアハンドを打ちたい!」
「ナダルみたいに、あんな高いスピンを打ちたい!」
正しい考え方
「フェデラーは、浅いボールが来たら、すぐに前に出る判断をしている。これは真似できる」
「ナダルは、深いボールで相手を後ろに押し込んでから、ドロップショットを打っている。この戦術は真似できる」
プロの「判断」と「戦術」を真似ることが重要です。
プロの「スピード」と「パワー」は真似できません。
罠②:フォームだけを真似る
プロのフォームを真似することは、悪いことではありません。
でも、フォームだけを真似ても、上達しません。
なぜなら、フォームは、その人の体格や筋力に合わせて作られているからです。
避けるべき考え方
「フェデラーのフォームを完璧に真似しよう!」
正しい考え方
「フェデラーのフォームの中で、自分にも応用できる部分はどこか?」
「テイクバックの小ささは、自分にも真似できるかも」
フォームの「エッセンス」だけを真似ることが重要です。
罠③:観るだけで満足する
プロの試合を観て、「すごい!」と感動する。
これは素晴らしいことです。
でも、観るだけで終わってしまうと、上達しません。
避けるべき考え方
「フェデラーの試合、最高だった!」(終わり)
正しい考え方
「フェデラーの試合、最高だった!あの浅いボールから前に出る判断、明日の練習で試してみよう」
観た後に、行動することが重要です。
テニスは「打つ」スポーツではなく、「見る」スポーツでもある
第31話から第34話まで、4つの観戦術を学びました。
- 自分を観る(第31話)
- 仲間を観る(第32話)
- 相手を観る(第33話)
- プロを観る(第34話)
この4つを通じて、一つの真実が見えてきます。
テニスは「打つ」スポーツではなく、「見る」スポーツでもある。
観る対象を変えることで、あなたのテニスの深さはどんどん広がります。
自分を観て、仲間を観て、相手を観て、プロを観る
自分を観る
- 自分の癖、判断のパターン、感情のパターンを知る
- 客観的に自分を理解する
仲間を観る
- 自分にはない視点を得る
- 他人の思考プロセスを理解する
相手を観る
- 相手の傾向を掴む
- 試合前から戦略を立てる
プロを観る
- 最高レベルの判断と戦術を学ぶ
- イメージトレーニングで技術を磨く
この4段階を経験した時、あなたの「観戦力」は「勝つ力」に変わります。
観る力が、勝つ力になる
テニスは、観察のスポーツです。
相手を観る。ボールを観る。コートを観る。自分を観る。
この観察眼が、勝敗を分けます。
第9話「視る力」で学んだように、視野の使い方が判断の質を決めます。
第31話から第34話で学んだ観戦術は、視野を広げる技術です。
観る力を磨けば、テニスが変わります。
今週末、試合を観に行きましょう。
自分の試合、仲間の試合、対戦相手の試合、プロの試合。
何でもいいです。
そして、「なぜそう打ったのか」を考えながら観てみましょう。
その瞬間、あなたの観戦力が、勝つ力に変わり始めます。
これで、観戦シリーズ(第31話〜第34話)は完結です!
次回からは、新しいテーマでお会いしましょう。お楽しみに!


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